読み終えたので、ざっくりその感想を。

結論:良い本なので、ゲーム作るひと、語るひとは買いましょう。
01、02ともにオススメです。

以下、本の内容半分、本を出汁にした自分語り半分くらいになります。

■アークイリス・レイオーラ ドラクエの玉座の間に見る心理的誘導
ドラクエ1の玉座におけるチュートリアルの見事さについては、自分も人並みには心得ていたつもりでした。実際に自分のゲームにも応用してみたことがあります。

具体的には、2段ジャンプ等覚えさせたい操作スキルを使わないと進めないステージで閉じ込めてしまって、強制的に覚えさせるという方法です。
 
夏妃ムラムラ(0:30~1:00辺り)
 ※この動画ではSE,BGMを原作の同名ファイルで上書きしてプレイしています

ただ、これはやり口としては少々強引な方法で、如何にも制作者の都合っぽく、ドラクエ1ほどナチュラルにはできていません。理想を言えば、作品世界を壊さずにチュートリアル臭さを脱臭し、ユーザがチュートリアルだと気付かないレベルでナチュラルに済ますべきでしょう。なかなか実際に応用するのは難しいものです。

閑話休題
当章においては、コマンド操作の強制習得の話のみに終わらず、その巧みな台詞回しによって心理的な誘導にまで切り込んで言及しているのが非凡なところです。
ドラクエの台詞に関して、動機付けの面でこれでもかというほど解説されています。たったあれだけの冒頭のやり取りをよくぞここまで掘り下げたものだと感心します。
また、当章そのものが唱えている持論を実証してるメタな構造は唸ります。お見事。
読んで感心するだけでなく、実際に自分のゲームに応用したいですね。


■ワンダールクス:アビス 全てのゲームを照らし出す統一理論 その深淵
当章を読むにあたって前提となる「ワンダールクス」に関しては、ネット上に無料で公開されているので、ワンダールクス ここを読んで膝を打たれた方は魔道書01、02巻を買われることをオススメします。

「世の中には2種類の人間が居る!」とか
「物語は36種類に分類できる!」みたいなもので
当論ではゲーム(とゲーム以外も)を4つに分けて論じようという試みです。

『すべてのゲームはタイムスケールに応じて「情報」「反応」「遊戯」「進行」4つのレイヤーに分けられる。』

「反応」は「入力」へのフィードバック
「遊戯」は「能力」へのフィードバック
「進行」は「努力」へのフィードバック

この切り分け方は個人的には非常に斬新で目から鱗です。

我々が太巻きに関して論じるとき、往々にして個別の具材に関して語りがちです。
やれ、「マグロが入っている」だの、「玉子が入っていない」だの、「きゅうりが水っぽい」だの、各要素の有無や質については兎や角語れらます。
ですが、太巻きを語るなら太巻きとして巻いて、包丁で切り取って、その断面、切り取られた太巻きの中で各具材の味や歯応えがどう相互に作用し合っているかを語るべきでしょう……

みたいに何かうまいこと言ってみたかったんですが、太巻きの比喩だと何処切っても同じ太巻きじゃねぇか! タイムスケールについて語れないだろ!っという問題に突き当たったので、やっぱこの喩えは止めます。
何かうまいこと言ってドヤりたかっただけなんです!


閑話休題
ゲームの良し悪しについて語るとき、この統一理論が共有されていればかなり話しやすくなるんじゃないでしょうか。
「流行りのアレが入ってない、コレが入ってない」と要素の有無や個人的好みだけで語られがちなゲーム論にある程度統一された指標を持ち込めそうです。

この指標で測ると、自分のゲームは4つともダメダメの論外なので積極的に取り入れたいところです。


■ダンタリアン・ルールズ 「脚本主体ゲーム」を定義する
脚本主体のゲームについて。
おおむねテキスト主体のゲームが多いけど、漫画やアニメ、映画的のような映像主体のものも含めることが可能なので、「脚本主体」っという括り方は良いと思います。

当章は全体的にいわゆるノベルゲームや狭義のアドベンチャーゲームの紹介がメインで、「こんなゲームがあります、こんなゲームもあります、ゲームシステムはこうです…」っといった感じで構成されています。

率直な感想としては、いわゆるノベル、アドベンチャーゲームが脚本主体なゲームであることは自明過ぎて改めて定義する必要性は薄く感じます。
ですので個人的には、それ以外のジャンルでありながらも脚本とゲーム本編が不可分な構成になっているゲームの紹介と分析を読みたかった感があります。

例えば、Aというゲームでは「王国が困窮している」という粗筋で巧緻なテキストが流れるけどゲーム本編のプレイには一切影響せず可分である、一方Bというゲームでは実際にゲーム内資源が枯渇し、王国の困窮をゲームプレイで身を持って感じられ不可分な存在である…だとか。
あまり上手い例が思いつきませんが。

章題の方を修正するなら、
『「脚本主体のゲーム」を紹介する』
『「脚本主体のゲーム」のおもしろさとその仕組み』
とかでしょうか。
紹介としては綺麗にまとまっている思います。


■召喚魔法:いあ・いあ・げえむ! リアル世界で「ゲーム」をする
ARG「Alternate Reality Game」「代替現実ゲーム」について。
バットマン映画の「THE DARK KNIGHT」のプロモーションキャンペーン「WHY SO SERIOUS? 」や「リアル脱出ゲーム」などリアルワールドで展開するゲームについて。
このジャンルのゲームに全然明るくない上にもう終わっちゃったゲームに今から参加することは不可能なので、こういう事例の紹介は助かります。



■レーヴェナトゥーラ 人が生きる目的から、ゲームの要素を理解する
人は「生きる力」を高めるために生きており、それを高める存在はポジティブで、それを脅かす存在はネガティブ、プレイヤーに好んで欲しい対象はポジティブに、逆はネガティブに…という話っぽいです。

半分くらいは「トゲなら痛い」など見かけから提供される機能(知覚されたアフォーダンス)に関する話でしょうか。
残り半分はネガティブな行動なのにポジティブになってしまったりその逆など望ましくないゲームデザインの例です。わざと下手糞なプレイをすることで自動難易度調整による難易度を下げたり、味方ユニットの存在が却って邪魔になってしまって殺した方がマシだったりするデザインなど。
スーパーマリオサンシャインの失敗例は、やってしまいそうなミスとして肝に銘じておきたいです。 

当章を持論語りの出汁にしてしまいますが、サッカーのオフサイドトラップってどうなんでしょうね? 例えば、格闘技で「後頭部や金的を殴っちゃダメ」ってルールは安全性の面からも納得できるんですが、それを逆手にとって後頭部や金的で相手の攻撃をブロックして相手の反則負けを誘うプレイが主流になってしまったらどうでしょう…。なんかそれはルールがおかしいんじゃないか? もうちょいどうにかならんのか? っとなると思うんですが。オフサイドトラップにも同じ匂いを感じるんですよね。「放り込み禁止」という精神は理解できるんですが…。敢えてディフェンスラインを危険な状態に晒す…っというのが、どうにも直感に反して気持ち悪いデザインに感じてしまいます。
ただ、もう高度な技術として地位を得てしまっているので、今更変更することは難しいですが…。こういう現象ってゲームのルールでも結構あるかも? もうユーザーのテクとして浸透してしまったので、今更変えたらブーイングとか。あと、こういうルールの裏を付いたテクってハックすること自体がたのしいんですよね …などと当章とあんまり関係ない持論語り失礼しました。

■イカ
個人的には1戦1戦の負けるのが辛いというよりも、「○時間もプレイしたら平均的な人間は○ランクになっている、それができないお前は平均より無能である」ということが発覚するのが恐ろしくてプレイしていない感じですね。ゲーム自体は勝っても負けても面白いです。勿論、勝った方が面白いですが。嘘でもいいから「お前は上位3%以内だ!」ってtwitterでよく流れる能力診断系サイトみたいに褒めて気持よく騙して欲しいですね。


■GOETIA
「理論を作るための理論」「魔道書の作り方」
面白い。魔導書の最後を締めるのにふさわしい内容。
読んでいて自分なりに持っているゲーム理論を言語化したくなってきますね。

■余談、当著書のカタカナ章題について
恥ずかしながら浅学ゆえ、これらの章題の意味があんまりわかっていません。
ワンダールクス? looks? lux? ダンタリアン? レーヴェ…え…と
雑にググった感じ、悪魔とか魔導っぽい関係のものでしょうか?

もし万が一、何かの手違いや勘違い、天変地異で当著書執筆のお鉢が回ってきたら、このカタカナ章題の命名に難儀しそうです。
マキシマモンゴリアンとかウサギトルネードとかそんな感じでいいんでしょうか?

■まとめ

読んでわかった気になるだけでなく、実際に自分のゲームに取り入れたいですね。